HOUSE M&Lの構造でご協力頂いている村上君から暮しの中の建築展に合わせて熱いコメントを頂きましたのでご紹介させて頂きます.


構造と仕上げの関係について考える HOUSE M&L 竣工にむけて

soiとの共同で設計したHOUSE M&Lがもう間も無く竣工する。
このプロジェクトでは、マンション1室の中にロフト機能を有する新たなボリュームを2棟計画している。
今回、私に与えられたミッションは、そのロフトの架構について考えて欲しいといった内容であった。

ロフトは1棟当たり10m3程度のボリュームであり、架構を考える上では小さいスケールにある。
小さいスペースを有効活用するため、構造体は極力少ない本数で、鉛直荷重、水平荷重を支える必要がある。

一方で、この小さいスケールに対応するため、架構は人間の動作や身体スケールに合う、家具的な装置が求められる。
家具の架構は、構造体となる骨組と仕上げが直接取り合う、あるいは仕上げ自体が直接自立している状態にある。
建築に例えると、構造体と下地の役割を同時に担っている状態であり、そこには構造と仕上げのヒエラルキーは発生しない。
このプロジェクトにおいても、構造と仕上げのヒエラルキーを解体し、どちらも表現の主体である、という状態を意識した。
これらの条件を満足する架構として、軽量鉄骨による構造を採用することとなった。
軽量鉄骨とは薄くて軽い鉄骨で骨組をつくり、パネルを取り付けて屋根や壁、床とする工法のことである。
板厚が薄いため、下穴を空けることなく現場でのビス止めが可能である。
一般的に、壁や床の下地によく用いられるこの材料が、このプロジェクトにおいて最も適した材料であると考えた。

本計画の構造部材は、鉛直荷重と水平荷重を支える通し柱と壁、床を支える梁と見切り縁、吊材といった部材で構成される。
以下に、その構造部材の役割について概要を示す。
1)通し柱
鉛直荷重、水平荷重を支える柱として、通し柱を2本設定した。
通し柱としたのは、今回の環境は既存の鉄筋コンクリート造床と天井があり、
通し柱の上下をその床と天井に固定することで、水平荷重を預けるに十分な剛性が発揮されるためである。
柱の断面は長方形の角パイプ:□-100x50x4.5とし、柱が並列する方向に合わせて強軸(長手方向)を設定した。

2)壁
2本の通し柱に直行する方向に、1枚の壁を設定した。
通し柱には方向性を持たせたかったため、通し柱の弱軸となる方向の水平力はこの1枚の壁が担うことになる。
壁の構成は、角パイプを井桁に組み合わせた上で、間に丸鋼ブレースを挿入した。
壁として仕上がることを想定しているため、角パイプの板厚を3.2mmに抑え、壁下地としての役割も同時に担う。

3)合わせ梁
通し柱同士と壁をつなぐ梁として、C形鋼:C-60x30x10x2.3の2丁合わせ材を設定した。
床の鉛直荷重と水平荷重を、通し柱と壁に伝える役割を担う。
今回は、柱とのラーメン架構を形成する必要がなかったため
柱とのボルトジョイントが容易である、合わせ梁のシステムが適している。
ちなみにsoiの設計では、この合わせ梁のシステムがしばしば用いられるため
梁の提案を行う上でおそらく合意が得られるだろうし、梁は極力表現したいという私の思惑もあった。

4)見切り縁、吊材
床の見切り縁にはアングルを流し、吊材を随所に設定した。
前述の通り、鉄筋コンクリート造に囲まれた環境であるため、鉛直荷重を直接天井に預けることで
架構の自立に必要な柱や壁の本数を減らすことに貢献している。
アングルの板厚は6mmとやや厚く、現場でのビス止めが困難なため、
レベル調整を兼ねたスペーサーをアングルに溶接し、床材のビス止めを可能にした。

このテキストは、本プロジェクトが竣工する直前に執筆されたものである。
私が現場を最終的に確認したのは、仕上げが施されていない状態、つまりは鉄骨がむき出しになった状態である。
鉄骨の建て方後の状態というのはとても美しい瞬間であり、このプロジェクトも例外ではなかったが、
私は、構造が立ち現れた後に仕上げが統合され、両者が相互依存したモノの状態に関心がある。

私が想定して撒いた種がどういった形で結実しているのか、はたまた想像を超えた形で立ち現れるのか、設計者としては非常に興味深い。
完成した姿を改めて確認することで、また新たな感性が芽吹くことに期待している。ともあれ2週間後の完成がとても楽しみである。

2019.09.14 村上 翔