今年5月にヒカリエのaiiima1の展示に訪れた際に知り合ったブックアーティストの太田泰友さんに誘われて、プリズミックギャラリーにて開催中の建築コンシェルジュ 坂山毅彦による「○○書店」で開催されていたギャラリートークを聞きに行ってきました.「○○書店」は、今まで何度か知人のFBで目にする機会があり、「何かなー気になるなー」とは思いつつも、最近の図面ラッシュに追われ、中々詳しくチェックすることができていませんでした。昨日沼田のパン屋併設住宅プロジェクトの概算見積図を提出し、一段落ついた所で、太田さんのギャラリートークがあるというタイミングだったので色々とチェックしてみると、とても共感することが多くありました.さらに会期が始まってから今までたくさんの興味深いトークが開催されていたことを知り、初めからチェックしていなかったことにとても後悔しました、、、、。
プリズミックギャラリーの過去の展示は、設計事務所等の作品展といった展示が多くあったのですが、今回は、建築コンシェルジュの坂山毅彦さんによる“名もなき書店”「○○書店」が7月22日(金)-9月11日(日)の会期中にオープンしているという少し変わった展覧会(?)というだけで、とても興味をそそられるイベントです.坂山さんは昼間は自身の設計事務所で建築設計をやられながら、夜は代官山 蔦屋書店 DAIKANYAMA T-SITEにて書店員をされているというスイッチングをするという日々を過ごされているという方です。いつもは場所や時間によってスイッチングされているのを同じ場所でスイッチングを繰り返すとどうかというような試みで、一カ月半の期間中“名もなき書店”をひらき、その場で設計事務所として設計活動をするということをされています.井上は、学生時代から「雑貨屋さんと設計事務所を同時にやりたい」ということをよく話していて、そのあり方にとても近いことを坂山さんは既に実践されていると感じました.「雑貨屋さんと設計事務所をやりたい」ということは、今までお話しする多くの人にはあまり理解されていなかったのですが、初めて坂山さんお話しするとすぐに、「それ、いいですね!」と言って頂きました.坂山さんは、書店員をすることは、建築事務所のためにやっていると考えているそうです.本というメディアが構想されて、実際にデザインされて、印刷されて、製本され、書店に並び、書店員さんが販売するという本の流れの終わりの部分を担うのに対し、建築家は、建築を作る最初の部分を担っているというそれぞれの両端をご自身はやっているということを話されていました.どっちがメインというよりも両A面シングルみたいなものだと、我々は最近よく作り手と使い手とうことを話していますが、坂山さんはご自身で設計事務所で空間の作り手となり、書店員さんで売り場という空間の使い手となっていることがとても面白いなと感じました.(また今回ここで書店員さんをされていたことでふらっと書店に入ってこられたおじ様から実際に設計のお仕事も頂いたそうです!)
○○書店では、本にまつわる事や働き方にまつわる事など様々な視点でたくさんの方面のゲストをお呼びしてギャラリートークを会期中何度も開催しています.6回目となる今回は、「本の中の空間、空間の中の本」 というタイトルでブックアーティストの太田泰友さんと建築家で『360°BOOK』の作者でもある大野友資さんと坂山毅彦さんによるトークでした.
大野さんは、360°BOOKや、「壁継」という木造建築の継ぎ手を利用し壁に付けた継ぎ手の片側に3Dプリンターで製作するアタッチメントを付けることで様々な壁に引っ掛けるしかけを作られています.それらは、ご自身の個性を出すというよりかは、システムやフォーマットを作ることを考えているそうです.重要なのは、後の人が参加したいと思わせられるモノであるかどうかという話をされていて、建築でも使い手がクリエイティブを発揮できる、誘発される空間がどうかが我々のテーマの一つであるので、共感する部分が多いなと感じました.大野さんの作品は、使い手まで含めて多様な作品となっているのに対し、太田さんの作品のアプローチは、太田さん自身が多様な視点、テーマをもってアプローチしているというのが印象的でした.太田さんは、最初のコンセプトを本という切り口として、構築していくそうです.鱒という作品では、「水」というコンセプトに対して本の構造として水をどう表現するか、アプローチするかということを考え、テキストや版、製本技術や紙など様々な視点を同時進行に走らせ、それぞれで模索しながら最後一つの作品に収束していくという進め方をされているそうです.本を切り口に進めていっていますが、太田さんの作品は最終的にはどれも「本です」とは言いきれない作品に昇華していることがとても興味深いなと思います.我々も「建築家です」とは言い切れないような存在のあり方ということを考えているので、太田さんの作品はとても楽しみにしています. Jensとコラボして、16 – 17 AW にて本の構造を使ったドキュメントケース・ウォレットも最近製作されたようで、それもまたとても素敵でした.(→タケオさんのページにて紹介されています.)
こちらは、店頭に置いてあった360°BOOKです.パッケージからはなるべく、一見普通の本として見えるように製本等をデザインされているそうです.
開くと360°開ききって、立体的な本になります.元々はご自身で作られたものをSNSにアップしたのをきっかけに話題になり製品化するという所まで進んだそうです.製作後こういった考えをしている方はいなかったのかなと色々と調べているとブルーノ・ムナーリのI PRELIBRI 本に出会う前の本という本にたどり着いたというお話もされていました.こちらの本も今度チェックしてみます.
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日時:2016年7月22日(金)-2016年9月11日(日)10:00-17:00
場所:プリズミックギャラリー
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ギャラリートーク006「本の中の空間、空間の中の本」:大野友資×太田 泰友×坂山毅彦
日時:9月1日(木) 18:30~(開場18:00)
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Soi 井上