以前室伏さんの自邸内覧会に伺った時の写真をSoi のinstagramにアップしてたところ、室伏さんの教え子であるイッカ建築設計事務所の西野さんとメッセージのやり取りをさせて頂き、スタジオ・アルテックの内覧会があるということで、ご案内をお送り頂きました!
不思議なご縁ですので、もしかしたらお会いできるかなという期待を胸に内覧会に伺いました.
大倉山駅から商店街を抜け、徒歩10分程の場所に建つ共同住宅で、高齢者優先の賃貸集合住宅です.全ての世帯が高齢者向けというわけではなく、2階、3階には子育て世帯のための賃貸住宅も含まれています.玄関扉の色で認識可能で、緑色が高齢者優先、赤色が子育て世帯の住宅です.また1階には、児童福祉施設や集会場、カフェ等も入る予定で、住民だけでなく地域に開かれた施設となるそうです.
配置の構成は、中庭を挟んで大きく二棟に分かれ、二棟がブリッジを介してつながっています.
敷地境界と建物の間には十分なセットバック(庭)を取り、様々な樹種の木々を植え、敷地周辺にとっても良好な環境を生み出しています.
鉄骨の丸柱が柔らかく内外の領域を規定するウッドデッキ仕上の外廊下は、幅約2mとゆとりをもって計画され、単に動線でしかない共同住宅の片廊下とは、根本的に違うもので、集合して住まう為の知恵と工夫、配慮と豊かさに溢れていました.屋外階段も屋外スペースを楽しく廻ることができるようにたくさんの経路が設定されています!
階段は、一つ一つの角度や手摺のデザイン、開く方向性が違い、生活しながら上下の移動と運動が楽しめるように工夫されています.
廊下や階段が積層された空間効率重視の集合住宅では、決して得られない豊かさがあります.
共用廊下のベンチ(兼消化器置き場)と各住戸内のベンチ(兼靴箱)は、大きな開口を挟んで設置されていて、住戸内外で自然なコミュニケーションが生まれる可能性を設計されています!ベンチが置かれている玄関土間の空間も十分な広さがあり、住み手に上手な開き方、開くことの豊かさを教えるような素晴らしい設計だと感じました.ベンチの下には給気口が隠されており、細部も丁寧な計画がされています.
土間から続くフローリングの空間との境は、長押(上部は開放)、障子戸があり開閉によって空間の使い方と開き方の調整が出来るようになっています.
住戸内には、随所に気の利いた造作とアイデアが詰まっていて、とても勉強になりました.
そして、共用部、住戸、造作とスケールを横断して展開している内外の多様な関係性と開放感の選択性がとても心地よい空間を作り出しています.
子育て世帯や間口の狭い住戸も同様に、内外の関係性を感じる作りになっています.
RC構造壁と乾式壁も面を揃えることはせずに、厚みの違いのまま空間のでっこみ引っ込みを作ることで、物の配置と領域の工夫に活かしています.
耐震壁を両側に寄せ、真ん中を乾式壁にしているのは、恐らくご自宅同様に将来の増改築にも対応可能な、普遍性を持ったスケルトンの状態を設計しているのだと感じました.
またこれからお庭が少しずつ出来上がってきたら、この様々な表情を見せている経路がぐっと魅力的になりそうです!!
その後は、井上の大学時代の恩師である土岐謙次先生の研究室と東京藝術大学美術学部建築科金田充弘研究室による展覧会『構造乾漆 Liquid to Solid しずくからかたちへ』の展示を見るためにAXISギャラリーへ行ってきました.漆を構造体として使うための様々な研究プロジェクトが紹介されています.
会場デザインは、西澤徹夫さん.什器のテーブルの脚は角材をシンプルに組み合わせていて、美しく賢いデザインだと思いました.また、真っ白に見えた天板部分もよーく見ると細かくピンク色の十字模様がグリット状に印刷されていて、展示物のガイドとしても、模様としてもかわいらしく、展示に対してとても気づかいのあるデザインです.こちらの作品は、使い捨ての紙コップや紙皿に拭き漆という技法を使って、繰り返し使えるような強度を持たせています.
学生が制作した椅子の展示もありました.乾漆(かんしつ・麻布などを漆で固めたもの)は繊維骨材を用いて母材を強化するもので、FRP(Fiber-Reinforced Plastic/ 繊維強化プラスチック)より遙か千数百年も先駆けて実現された、原理的には同じ発想の技法だそうです.こちらの椅子は、土岐研究室4年生の舘野沙弥さんの作品です.乾漆シートの柔軟性を活かし、CNCで切り出したフレームで支えています.フレームも拭き漆で仕上げているそうです.
こちらのFRUスツールは、土岐先生と金田さんの作品、寒冷紗と漆を用いて、型を使って、乾漆のみで作り上げたスツールです.見た目もとてもかっこいい!さらに強度を担保させている曲線がとても体にフィットして、とても座り心地が良いのです!さすがです、、、、.
漆の原料や採取の仕方、重ね塗りの実験なんかも展示されています.絵の具のチューブのようになっている商品などもありました.顔料を混ぜれば色んな色もできるそうです.左の写真の濃い茶色が殆ど原料の色で、赤い顔料を混ぜると写真のような赤っぽい艶やかな色もでるそうです.
また今回は、乾漆で作ったテーブルもありました.天板は、芯材のハニカムパネル(紙製)の両側を乾漆シートでサンドイッチして強度を出しています.脚は3Dプリンターで型を作り、乾漆で固めた後、型を取り除き、中空の状態になっています.すべて乾漆(漆、綿および麻、紙)で製作したテーブルでは、1800mmx900mmのサイズでも重さがなんと、12kgしかないそうです.超軽量、、、十分な実用強度は実験で実証済みだそうです.会場で土岐先生が「これ、ええやろ!?」とお話ししていた姿がとても土岐先生らしくて、ニヤニヤとしてしまいました.我々の建築でも漆を活用してみたいです!
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構造乾漆 Liquid to Solid しずくからかたちへ
出展: 宮城大学デザイン情報学科土岐謙次研究室、東京藝術大学建築科金田充弘研究室、TOKITOKOLO(土岐謙次・野老朝雄)、FabLab SENDAI FLAT、FabLab KAMAKURA、N&R Foldings
会場: AXISギャラリー 〒106 0032 東京都港区六本木5-17-1 AXISビル4F
展覧会デザイン:西澤徹夫(西澤徹夫建築事務所)
会期: 2016年11月18日(金)—11月23日(水)11:00-19:00
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Soi 井上