先日FUJIWALABOで担当していたPOLY-HOUSEのお施主さんである関さんからご連絡を頂きました.関さんとは、引渡た後にも別のお仕事を頂いたり、様々なレクチャーや内覧会に誘って頂いたり、季節が変わる度にご連絡を頂いたりと、とても嬉しいことに、独立した後も色んなタイミングで我々の応援をして頂いています.今回ご連絡頂いたのは、関さんのご長男であるスズキユウリさんが現在スパイラルで開催中のSENSE OF MOTION に参加されているとのお知らせでした.この展覧会は、「動き」をスムーズにするベアリングを中心に製造してきたグローバル企業である日本精工株式会社(NSK)の創立100周年を記念して開催されています。NSKビジョン2026 「あたらしい動きをつくる。( SETTING THE FUTURE IN MOTION)」というテーマのもと6組のアーティストが展示をしています.
ユウリさんの作品は入り口にて展示されていました.今回は、SLOWLABELと協働の作品「Tutti in C」です.正面にパイプオルガンのようなものがついたピンボールマシンのような作品で、正面や横から、ボールを跳ねる仕掛けがついていて、球とフリッパー部品にNSK 製品が使用され、球が跳ね返るごとに音がでます.たくさんの方々が一緒に演奏することができる楽器になっているそうです.
アトリウムには、エマニュエル・ムホーさんの「混色」という色鮮やかな作品がありました.
6Mの高さがある100色の紙でできた花のモチーフが自然光の中で、ゆらゆらと揺れています.ベアリングによって規則正しい動きをしているそうです.
スパイラルの後は、STUDIO 2Aの宮晶子さんのオープンハウスのために、1時間半程電車に揺られて埼玉県深谷市へ向かいました.深谷の駅前には、大和田がFUJIWALABOで担当していた葵メディカルアカデミーがあります.引渡から1年半程経ちましたが、郊外に多い安普請の建物群と駐車場だらけの風景の中で、白く凛とした佇まいで建っています.(もちろんこの建物も建設費自体はかなり抑えていますが、、、)
葵メディカルアカデミーをちらっと見た後に宮さんのオープンハウスへ、ここは隣に建つ黒んぼ食堂(こちらも宮さん設計)の息子さんの住まいだそうです.風景の中でのボリュームのあり方をスタディし、いくつかのスケールエラーを起こすことで、何か不思議なボリューム感、大きさが掴めない建築となっていて、黒んぼ食堂の方から見ると、とても遠くにある山のような、集落のような風景にも見えます.
実際にはかなりコンパクトな建築ですが、建築の大きさというのは、実際の大きさというより、建ち方や問題意識、思想や概念の大きさによると我々は考えているので、宮さんの作る建築にはいつも”大きさ”と”強さ”を感じます.
近づいてみると手前のボリュームの低さ(H1,400mmの軒高)と小窓のように見えていた窓の大きさ(1200mm角)にとても驚きます.外壁に使用しているガルバリウムの小波板は、見る側の距離によって、輪郭の揺らぎ、肌理のイメージが変化していき、角度を変えたボリュームの外壁が奥と手前でまた違った表情を持ちます.
庇の深さが変えられているのもまた効果的で、立面がキュビスムのイメージと仰られていたのが、とてもしっくりときました.
この建築の全体イメージ(概念)は、捉えやすいようなまとまり、形やバランス、意味を作りつつも、近づくと揺らぎや感覚の違いが楽しめて、視点の自由さというものを感じました.(故に写真に収めるのも難しい)単に経験的、映画的というよりも、空間とイメージの散策、もしくはある画家の一連の絵画作品とそのモデルを同時に見ている(絵と現実の違いを楽しめる)ような情緒と遊び心にあふれたものだと感じました.
また、同時に宮さんのかわいらしい人柄が色濃く現れ、先に建てられた食堂との豊かな関係性(これから整備される外構のアイデアもとても素敵)も含め、一つの世界を提示していて、とても気持ちのいい建築のあり方だと思いました.(人柄が現れるというのも名建築の条件ですね!)
内部空間は、床、壁、天井まるっとラワン合板の仕上げに包まれた木の洞窟のような空間にたまに配管(写真は基礎と干渉しているエアコンの配管)が出ていたのですが、これを空間のアクセサリーだと表現していたスタッフの原田さんもとてもユニークで面白いなと思いました.
窓は全て、1200角の突出し窓です.宮さんの作品は、今まで壁の隙間を開口としていて、所謂、”窓”を避けていたそうなのですが、(風景を切り取り、ここを見よ!というものを避けていたそうです)今回初めて窓を作ってみて、見る場所や角度によって変わる景色を使い手の捉え方、使い方によって変わることが分かり、今後も発展させたいということでした.宮さんが「動かないことの方が自由だと思う」とおっしゃていた事は、本当に共感しました.建具によって、自由に空間を間仕切れるというのは、逆に使い手の自由を奪っていて、動かないことによって使い手は工夫をしたり、より能動的になるのだということです.
浴室はフレキシブルボード仕上.目線よりも少し高い位置に開口があり、隠れつつ開放的な場所になっていました.
ラワン合板は工場に行き、特徴のあるものをナンバリングして、位置を指定、コントロールして作っているそうです.
また屋根の形が平行四辺形になっているので、微妙にカットしたりすることで、天井と壁との合板の目地を合わせたりしています.しかし、全て目地を合わせすぎると空間が緊張感を持ちすぎて、逆に疲れてしまうので、所々、目地をずらして、バランスをとっています.床は少し黄色い塗装(コンパネみたいでかわいい)とし、トップにクリア塗装、そのクリア塗装を少し立ち上げて巾木としています.階段の部分が少し歪な平面の形をしているのは、端緒に洞窟のような、穴を掘っていくようなイメージをもっていたため.(もちろん振舞いや機能的、感覚的な部分も含めて複合的に決定されている)
設計を進めていく時に、どうしても経験的、無意識的に揃えたり整えたりしてしまいがちですが、まず作りたいイメージがあり、そこに向かって細部を決定していく大切さを再認識しました.(我々は西沢立衛さんに同じようなことを言われたのを思い出しました)
そしてこの角や鋭角の納まりの綺麗さ、大工さんも凄まじいです、、、!
内覧会の後は、黒んぼ食堂にて、内覧会でばったりあったY-GSA同期のtomito architectureのお二人とご飯を食べ、宮さんの建築や、最近の活動の事等たくさんのお話をしました.いつ来ても黒んぼ食堂は美味しいのです!(大和田がまた太っていく...)
話は尽きず、帰りの電車はボックス席を陣取り、ずっと話し続けてあっという間に東京まで戻ってきました.
建築の大きさを教えてくれる先生と建築の楽しさを共有出来る同期がいるというのは、とても良いものです!
—
SENSE OF MOTION
会期:2016年11月9日(水)〜20日(日)11:00〜20:00
※11月9日は18:00まで
会期中無休
会場:スパイラルガーデン(スパイラル1F)
〒107-0062 東京都港区南青山5-6-23
—
黒んぼ食堂
営業時間: 11時30~15時00 (l.o14時30)
18時00~21時00 (l.o20時30)
定休日:火曜日
住所:埼玉県深谷市宿根525-1
—
Soi 井上